改正民法が施行されました②(所有者不明土地関連その1)

今回は、「民法の規律の見直し」のうち共有制度についてご紹介します。

 1 民法の規律の見直し
 (2)共有制度
 遺言がなく法定相続人が複数いる場合、遺産分割協議を行うまでは法定相続人間で遺産を共有する状 態になりますが、相続人が多数であったり所在不明であったりして共有物の変更や管理が困難なケースがあるため、以下の改正が行われました。

 ① 「軽微な変更」は持分の過半数で決定できる
 共有物の形や性質に変更を加えるには共有者全員の同意が必要ですが、あらゆる変更行為に全員の同意が必要とされると共有物の利用が阻害されるため、形状又は効用の著しい変更を伴わない変更行為(=軽微な変更)は持分の過半数で決定できることになりました。
具体的な事案にもよりますが、砂利道のアスファルト舗装や、建物の外壁工事・屋上防水工事などは「軽微な変更」にあたると考えられています。

 ② 短期の賃借権について期間の明文化
 共有物に長期間の賃借権を設定するには共有者全員の同意が必要と解されていますが、長期間か否かの基準が明確でなかったため、実際には共有者全員の同意が求められるなど、円滑な利用の妨げになっていました。
 そこで、持分の過半数で決定できる賃借権の期間が明文化されました。土地(山林以外)は5年以下、建物は3年以下などです。なお、借地借家法の適用がある賃借権は終了時期が確定しないため共有者全員の同意が必要となりますので、持分の過半数で短期賃貸借を設定するためには、一時使用目的や定期建物賃貸借であることを明確にする必要があります。

 ③ 共有物を使用する共有者がいる場合
 共有物を使用する共有者がいる場合でも、持分の過半数で管理に関する事項を決定できることが明文化されました。ただし、その決定が共有物を使用する共有者に特別の影響を及ぼすときは、その共有者の承諾を得ることが必要とされます。「特別の影響」にあたるか否かは、決定の必要性・合理性と、使用する共有者に生じる不利益を比較して、事案ごとに判断されます。
また、共有物を使用する共有者は、他の共有者に対し、自己の持分を超える使用の対価を償還する義務を負います。ただし、共有者間で無償とするなど別段の合意がある場合にはそれに従います。

 ④ 賛否を明らかにしない共有者がいる場合
 共有物の管理について、相当期間を定めて賛否を尋ねても明らかにしない共有者がいるときは、裁判所の決定を得て、それ以外の共有者の持分の過半数で管理に関する事項を決定することができます(ただし、変更行為や、抵当権設定など共有持分を失い得る行為には利用不可)。

 ⑤ 所在不明の共有者がいる場合
 共有者が不明または所在不明であるときは、裁判所の決定を得て、(ア)それ以外の共有者全員の同意を得て変更行為をしたり、(イ)それ以外の共有者の持分の過半数で管理に関する事項を決定することができます(ただし、抵当権設定など共有持分を失い得る行為には利用不可)。

 ⑥ 共有物の管理者に関する規定 
 共有物の管理者に関する規定が置かれ、持分の過半数で選任又は解任できること、管理行為(軽微な変更行為を含む)を行うことができること、共有者が共有物の管理に関する事項を決定した場合にはこれに従ってその職務を行わなければならないことなどが明文化されました。

 ⑦ 共有物分割に関する規定
 裁判による共有物分割について、現物分割と競売分割のほかに賠償分割が可能であることが明文化されました。また、現物分割と賠償分割のいずれもできない場合や分割によって価格を著しく減少させる恐れがあるときに競売分割をすることができるとして検討順序も明確にされました。

 ⑧ 所在等不明共有者の不動産の持分の取得・譲渡
 不明または所在不明の共有者がいる場合に、他の共有者が、(ア)裁判所の決定を得て当該所在等不明共有者の不動産の持分を取得したり、(イ)裁判所の決定を得て当該所在等不明共有者の持分を譲渡する権限を与えられる制度が設けられました。いずれの場合も所在等不明共有者は時価相当額の請求権を取得します。また、遺産共有のケースでは相続開始から10年経過しなければ利用することができません。

    「改正民法が施行されました③(所有者不明土地関連その1)」へ続く

                                    弁護士 若林