改正民法が施行されました①(所有者不明土地関連その1)

  土地の利用の円滑化を目的として、所有者不明土地の解消・予防に向けて民事法制が変わります。今年4月から順次施行されています。
「所有者不明土地」とは、「不動産登記簿により所有者が直ちに判明しない土地」と「所有者が判明しても、その所在が不明で連絡が付かない土地」をいいます。
 主な改正内容は以下の三点です。
  1 民法の規律の見直し(R5.4.1施行)
    相隣関係や共有制度の見直し、所有者不明土地管理制度の創設等
  2 相続土地国庫帰属法(R5.4.27施行)
    相続により取得した土地を、法務大臣の承認を得て国庫に帰属させる制度の創設
  3 不動産登記制度の見直し(相続登記義務化はR6.4.1施行)
    相続登記・住所変更登記の申請の義務化等

 今回は、「1 民法の規律の見直し」のうち相隣関係についてご紹介します。

(1)相隣関係

① 隣地使用権
 改正前は「土地の所有者は、境界又はその付近において障壁又は建物を築造し又は修繕するため必要な範囲内で、隣地の使用を請求することができる」と規定されていましたが、隣地使用者の承諾(又はこれに代わる判決)が必要なのか不明確であり、また、隣地所有者が所在不明の場合には対応が困難でした。また、上記以外の目的で隣地を使用できるかも不明確でした。
 改正により、土地の所有者は、必要な範囲内で隣地を「使用することができる」と規定され、権利であることが明文化されたほか、目的についても「境界又はその付近における障壁、建物その他の工作物の築造、収去又は修繕」「境界標の調査又は境界に関する測量」「(越境した)枝の切取り」と規定されました。隣地所有者の承諾は要しませんが、隣地所有者のへの配慮として、原則として事前に使用の目的・日時・場所・方法を隣地所有者に通知すべきとされました。例外として、あらかじめ通知することが困難なときは、使用を開始した後遅滞なく通知することで足りるため、隣地所有者が所在不明の場合、所在が判明した後に遅滞なく通知すればよいと考えられています。なお、自力救済が認められないことには変わりがないので、仮に妨害行為があっても自力で排除するのではなく、判決を得て強制執行すべきことになります。

② ライフラインの設備の設置・使用権
 他人の土地や設備を使用しなければ自分の土地に電気、ガス、水道、電気やインターネット等の電気通信(ライフライン)を引き込むことができない場合、改正前は明文の規定がなく、他人の土地の所有者に応じてもらえないときや所在不明であるときは対応が困難でした。
 改正法により、必要な範囲で、他の土地に設備を設置したり他人が所有する設備を使用したりできることが明文化されました。その際の通知のルールについても規定され、事前に、目的・場所・方法を他の土地・設備の所有者及び使用者に通知すべきとされました。相手方が不明または所在不明の場合も通知が必要なため、公示による意思表示(民法第98条)を利用することになります。また、他の土地又はその所有者・使用者に損害等が生じた場合には償金を支払う必要があります。なお、自力救済が認められないことは隣地使用権の場合と同様です。

③ 越境した竹木の枝の切除
 隣地の木が越境してきた場合、これまでは、「根は切り取ることができるが、枝は勝手に切ることができず、木の所有者に切除を求める」こととされていました。
 今回の改正により、枝について、原則として木の所有者に切除を求める点は同じですが、(ア)切除するよう催告しても相当期間内に切除しないとき、(イ)木の所有者が不明または所在不明のとき、(ウ)急迫の事情があるときには、越境してきた枝を切り取ることができるようになりました。

         「改正民法が施行されました②(所有者不明土地関連その1)」へ続く

                                      弁護士 若林