パワーハラスメント行為の防止に必要な体制、整っていますか?~中小企業に対する義務化に対応するために~
東北のとある企業で、新年会での余興にかこつけて、上司が部下に侮辱する内容の賞状を贈り、贈られた社員が自殺するという衝撃的なニュースが世間を騒がせています。その内容はあまりにもひどいもので、亡くなったご本人やご遺族の気持ちを考えると、大変胸が痛みます。
ニュース報道で見聞きした限りですが、このような上司の態度は、一見して、職場でのパワーハラスメント行為(以下「社内パワハラ」といいます。)にあたります。社内パワハラとは、優越的な関係を背景として、業務上必要かつ相当な範囲を超えた、労働者の就業環境を害するような職場での言動を指します。
これほどひどいものでなくても、社内パワハラによるトラブルは、企業活動につきもののリスクといえます。こうしたリスクは、決して他人事ではありません。
今年(2022年)の4月1日より、労働施策総合推進法の改正法(通称「パワハラ防止法」)が施行されました。これにより、中小企業に対しても、社内パワハラを防止するために必要な体制を整備する法的義務が課されました。義務違反に対する罰則はありませんが、もし、この法的義務を満たしていないと、社内パワハラが起きた場合に、厚生労働省から指導や勧告を受けたり、場合によっては会社名と事実関係を公表されるという措置をとられたりするおそれがあります。また、今回の報道のように、会社がパワハラを受けた社員やそのご家族との紛争の矢面に立たされることも十分考えられます。
では、社内パワハラを防止するために企業が整えるべき体制とは、どのようなものでしょうか。それは、厚生労働省が定める「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号)」5頁以下に3つ定められています。
1つ目は、社内パワハラに関する会社の方針等を明確にして、それを社内で周知・啓発することです。まず、就業規則等を改訂して、パワハラを禁止行為及び懲戒処分の対象行為にすることになります。また、どのような行為がパワハラにあたるのかや、パワハラをしてはいけないことを社内報などで周知したり、社員向けの研修を実施したりする必要があります。研修にあたっては、弁護士に依頼するのがよいと思います。
2つ目は、相談窓口を設置して社内で周知し、社内パワハラに対応できるようにしておくことです。相談窓口は、社内で担当者を決める方法と、外部に委託する方法があります。社内で担当者を決める場合には、全ての社員が自分の所属部署以外の窓口担当者に相談できるよう、担当者を複数名決めておくことをお勧めします。
3つ目は、社内パワハラ問題が起きた場合に、迅速かつ適切な対応をとることです。社員からパワハラに関する相談を受けた場合には、すみやかに関係者の聴取や社内メールの確認など調査を実施し、事実関係を確認します。社内パワハラにあたると判断した場合には、被害を受けた社員に対する配慮のための適正な措置をとるとともに、行為者である社員に対する懲戒等の適正な措置をとらなければなりません。その上で、再発防止に向けて社内での周知・啓発を行います。
なお、こうした対応をとる際には、社員のプライバシーや個人情報に配慮する必要があるほか、相談や告発等をした社員を不利益に取り扱ってはならないと定められています。
これが、改正法の施行により中小企業にも義務づけられるようになった内容です(詳しくは、先に挙げた厚生労働省の指針を参照してください。)。
どのような行為がパワハラに該当するかや、適正な措置とは何なのかについては、イメージが沸きにくいかもしれません。もし、会社としての対応を誤ってしまえば、会社と労働者の間で紛争になりかねません。
大切なことは、日頃から定期的に社員向け研修を実施したり、問題が起きたときにすぐに専門家に相談したりすることです。当事務所では、8名の弁護士が、各企業から依頼を受けてコンプライアンス研修を実施し、パワハラなどの労働問題に関する相談に日々対応しております。改正法への対応を含め、お気軽にご相談いただければ幸いです。
弁護士 久保田